油の歴史は、特にオリーブ油に関して、古代エジプト時代から古い記録が確認されています。このオリーブ油は乾くことのない不乾性油ですが、油絵にて必要とされるのは空気中の酸素を吸って酸化重合して透明で強靭な皮膜を作る乾性油です。
絵画の分野では、12世紀のスウェーデンの「キリスト磔刑像」で確認された油絵具が最古の例とされていましたが、
最近の調査でアフガニスタンの世界遺産バーミヤン遺跡にある12の石窟壁画が、7~10世紀にクルミやケシの実の油に極めて近い成分の油を用いた油性塗料で描かれた世界最古の油絵であることが判明したようです。
油絵具は、絵画技法史上では、15世紀のフランドルから発祥したといわれています。それまでのヨーロッパでは卵黄テンペラ絵具が最も使われていましたが、やがてテンペラの上に油絵具を重ねた併用構造となりました。油絵具の特徴として、油と樹脂と溶剤を混ぜ合わせたワニスによって、より緩やかな乾きからぼかしが可能となり、明暗の滑らかな移行が容易にできること、塗った直後と乾燥後での色彩の変化が少ないこと、透明な層を濁ることなしに重ねられるなどがあげられます。ファン・アイクは当時求められていた現実の再現に適した素材として輝かしい光と色彩による完全な絵画空間を創造し、油彩画をより豊かにした「完成者」といえます。
そして油彩画の技術は瞬く間にヨーロッパ全土に広まったのです。
イタリアでは16世紀までテンペラと油が混用されて支持体を木板に描かれていましたが、ヴェネツィアでは湿度が高く、木板の反りやその重量が問題となっていたのです。そこで、海上交易が盛んだったことから、帆船の帆布を使うキャンバス画が登場しました。木枠にキャンバスを貼って絵を描くスタイルが、ここから始まり、やがてイタリア全土へと広がり今日の油画の基本がここで出来上がることになりました。
その後、17世紀のルーベンスやレンブラントらによる第2 フランドル派や、18世紀のアカデミー、19世紀の印象派、20世紀の多数の芸術運動や合成樹脂を含めた絵画技法へと繋がっていきました。現在の日本で使用されている油絵はこの印象派以降のスタイルです。
この教室では15世紀のファン・アイクらやその他の流派が使用したと思われる技を使った作品作りを行なっています。その最大の特徴はグレーズによる発色の美しさにあります。その秘訣は、乾いてからいく層にも重ねても色が濁らずに鮮やかさが保つことのできる重色にあります。その層を保つためには樹脂や油を調合したワニスやメディウムが必要になるのです。