ClassicalTechnique 古典技法

 現代の私たちの美への意識は遥か遠い古代ギリシア時代に遡ります。その明晰な理念は、調和を重んずる形式、理想的な人間像を重視した考えに基づいた技法と言えるでしょう。古典技法とは、時代を特定出来るものではありませんが、現在の技法と比較するとその特徴は鮮やかに見えてきます。 それぞれの時代において、各技法はその理想に向けた試行錯誤の上に、積み重ねられた経験が伝統となり、それが培われて受け継がれてきたのです。その工程は、常に手順を遵守しなければならず、終始一貫して綿密な手仕事の技によってのみ、成し得る方法だと言えるでしょう。
 
  絵画における古典技法とは、昔日の巨匠と呼ばれる画家達、すなわち13世紀から15世紀までのテンペラ画家、14世紀から17世紀までのテンペラと油を併用した画家、16世紀後半から17世紀にかけての油彩画家などが実践して行ってきた技法を指します。それぞれの時代において、この技法的な探求から表現までもが大きく変化してきました。  一方、額縁においては、当初は絵画と一体化して製作されていましたが、絵画を嵌めるものとしての機能をもつようになってからは、絵画とはそれぞれ別の道を歩むことになります。その古典技法とは13世紀から19世紀頃まで、工房毎に職人が木地を組んだ後に、膠と石膏や白亜をまぜて下地を塗っていた時代までの作り方を指します。その後の仕上げの処置に関しては、様々な素材・技法を使った、実に多様な仕上がりになってきました。絵画では既に使われなくなった古の技法も、額縁制作においては、依然として使い続けている工房もあるのです。
 

下地  Sizing and Ground

   かつて画家や額縁作家の仕事は、目止めや下地づくりから始まるのが大原則でしたが、今や画材店に行けば加工済みの商品が、代金と引き換えに、簡単に手に入る今日では下地の存在は忘れ去られています。実は作品自体の印象、質や耐久性、支持体と絵具のつきの良し悪し、絵具の発色効果も、この下地ひとつの出来栄えで大きく左右される大切な要素なのです。 絵画や額縁などの全ての作品は「支持体」「下地」「絵具層」の3つの層から出来ています。その「下地」の層には、「目止め」(sizing)と「地塗り層」(ground)が挟まっています。この層は絵具が支持体に直接に染み込むのを防ぎ、表面では絵具の「載り」を助けます。そのためには膠と石膏や白亜が欠かせなかったのです。 この層での作業は、支持体同様に、絵具層に決定的な影響を及ぼす所以に、最も重要な作業なのです。古典技法においてはこの「下地づくり」が全ての作品に共通する作業とも言えるでしょう。

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